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2015年の秋より、店内に蓄音機が設置されました。

これはBar月読のお客様でもあり、プライベートでもお世話になっている青木正明氏と、そのお父様である青木和美(かずよし)氏から

 

「ここに蓄音機を置かせてはもらえないだろうか?」

 

という望外なお言葉を頂き、即決した次第です。

 

木正明氏は月読の近くで草木染めの工房&ショップを営んでおられます。
青木和美氏(現在スペイン在住)は、商業的でなく伝統的フラメンコを追求した著者ドン・E・ポーレンの翻訳をされています。
さてこの蓄音機、名称をクレデンザといいます。
1920年代後半にアメリカ、ビクトローラー社によってつくられました。
78回転ですから、もちろん普通のレコードはかけることができません。SP盤というセルロイド製の専用のレコードがあるのですが、今現在ギリギリ普及しているLPレコードとは違い、もう生産される可能性は限りなく0に近いものです。ちなみにここには上記、青木和美氏がスペイン在住であるため、日本では珍しいフラメンコのSP盤が多くあります。
 
クレゼンザの最も特筆すべき特徴はいわゆる”電蓄”といわれる電気式蓄音機の前時代のもので、動力がゼンマイであるということ、そしてそれにともなって音を電気で増幅していない自然の音だということです。
写真にあるように、ハンドルを回してゼンマイを巻きます。

おおよそ100回くらい。
 
電気増幅していないので音が小さいと想像されるかも知れませんが、実はかなり大きな音が出ます。
 
体育館で使用可能らしいですよ。
 
音量は針の太さを変えることと、手前の扉(写真では左側)の開閉具合で調節します。
針のケースもノスタルジックな趣で絵になります。
レコードを一枚かけるごとに、針も1本交換です。
もったいないようですが複数回使用するとレコードが削れて損耗する度合いが大きくなるのです。
 
写真にあるように、使用後の針を紙に擦ると黒いススのようなものが付着します。これがレコードの削りカスですね。
 
視覚として認識すると、1曲ごとに音が変わっていく消耗品だということがよくわかりますね。
 
ゼンマイは巻かないといけない、針は1曲ごとに交換、レコードのかかっている時間は短い・・・つまり当時はBGMという概念はなく、何かをしながら音楽を聴くことはできず、必ず”向き合って”聴くものだったのです。
天版の裏に登録商標が打ちつけてあって、
コードナンバーと”CREDENZA”のネームが入っています。

業者さんの話だと”クレデンザモドキ”な機種も多くあって、本物には必ずこのロゴが入っているそうです。
先日、動力部分をメンテナンスに出していて、そのとき内部の写真を撮ることができました。

ゼンマイ、意外と小さいですね。
ゼンマイに油を挿す場所が図解されています。
回転数を合わせているところですが、レコードのクオリティによっては微妙にずれることもあるらしく、最後は聞き手の経験則によってその都度、手動で変えていくものらしいです。
回転版のない状態。
左手前が回転数調整目盛りで、右手前はレコードの自動ストッパーです。
肝心の音について。
おそらく初めて聴いた方はビックリされると思います。
何人かの方は聴きながらに涙を流されました。
 
不思議ですね、蓄音機の時代の人達が努力に努力を重ね今日まで技術を進歩させてきて、現在における最先端のオーディオ機器に至ったのに、
それが逆に今、このクレデンザを聴くと、
 
「温もりのある音が人間的でいいなあ!!」
 
と多くの人が口を揃えていうのですから。
 
あらゆる意味において、はたして技術は進歩してきたのでしょうか?
Bar月読ではこのクレデンザ、お客様からのリクエストがあればおかけすることができます。
(無料)
 
より多くの人に聴いていただくことは、クレデンザのオーナーである青木氏の望みでもあります。
 
ただ上記の通り、蓄音機は非常に手間の掛かる音楽装置であるので、店が込み合っているときや、お客様の注文が立て込んでいる場合、もしくは一般のレコードやCDなど、先に他のお客様のリクエストでかかっている場合など、蓄音機のご要望にお応えできない場合がありますので、その点は御了承くださいませ。
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